Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
「御発向だぞ」
「明、三月六日」
「都門を立つは辰ノ刻」
右衛門ノ佐義助が、三条高倉を辞して、やがてまもない後である。この陣布令は、洛中に散在している諸武家の屯へ、触れ廻され、戞々の駒音が、夜どおし、都大路に鳴っていた。
もちろん、義助が帰ったあとの高倉ノ館でも、例外ではない。足もとから鳥が立つような準備に邸内は夜を徹していた。――が、なおまだ渡りの廊の彼方の一亭だけは、夜を惜しむひそけさだった。……暁まではと、几帳の蔭にすすり泣く黒髪のひとの恨みが細い灯影をいとど淡くし、義貞の膝を濡らしていた。
「わかったな、麗子。……それとも、まだ得心がまいらぬか」
「い、いいえ」
「ならば、泣くな。日ならずして、凱旋する。その日を待て」
「……はい」
「ここは後宮でない。涙など武門では不吉とする。とりみだすのは」
「殿。お別れを悲しむだけではございませぬ」
「では、何を」
「まだお病気も癒えきらぬお身で……。そのおからだでと思いますと」
「ぜひもない。これが武者というものだ。からだもつらい。そなたとの別れはもっとつらい。だが武門とはこうしたもの。……後宮は火宅とか、そなたは言ったが」