Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(七) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 330.262 Zeichen · 662 Bildschirme
だから何事も起らぬようにと、ここはただこの場のがれを密かに希っていた彼だった。しかし正季はすでにすべてを聞いていた風で、やりばない忿懣が語気そのものにあらわれていた。
「やいっ、介とやら。いや足利家の諜者、よくも多年わが領内にいりこんで、正季が目をくらましていたな!」
「…………」
「敵ながらけなげな奴だ、汝の主人尊氏に代ってほめてやる。だがこれが兄上でなく、正季の手で汝を処分していたなら、その素ッ首は、無事に、尊氏の許へは返されまい」
「…………」
「命冥加な奴ではある。かえすがえす、ありがたいと思え。したが、このことを以て、楠木党の甘さと見たら大間違いだぞ」
正季は、ずかと寄って、
「覚えておけ。ここには龍泉の正季もいることを」
と、いきなり介の横顔を平手打ちにばッと撲ッた。
介は、顔を抱えて少しよろめいた。それへ向って、さらに正季の二打が追いをみせたときである。縁の上から正成が、
「正季っ、よせ。よさんか。児戯のようなまねは」
と、つよく叱ッた。
ふとその兄を振向くと、いかにも愉しまぬ、不愉快そうな色だった。その態度が、この日頃にあった正季の不満の吐け口をつい誘った。