Japanische Klassiker mit Furigana
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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
Lesen Sie 霧の蕃社 (きりのばんしゃ) von 中村 地平 (なかむらちへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.389 Zeichen · 57 Bildschirme
「あいつを殺すかわりに自分が死ねばいいのだ」
ある晴れた日の午後、近藤は妻を郊外の海岸に誘った。心中する以外に方法は無いと思ったのである。
海岸に出ると、海はまるで鉄の鎖でもほぐすように、ガラガラ、ガラガラ無気味な音をたてて鳴り響いていた。有名な花蓮港の大浪が海底の小石をも運び、もて遊んでいる音である。海岸に坐ると、近藤は泣きながら妻に言った。
「頼む。俺といっしょに死んでくれ」
しかし、テワスにとっては心中は理解できないことであった。どうして死ななければならないのか、素朴なオプティミストにはどうしても呑みこめないのである。
無気味な、女とは思えない位強い力で夫の体を陸地にひきずり戻そう、とするばかりである。
「帰ろ、うちに帰ろ」
間もなく近藤は思いあきらめたように、ぐったりした視線を遠い海面に放ったままつぶやいた。
「死ぬのはやめだ。俺もこの辺りを散歩して間もなく家に帰る。お前だけ先に帰っておれ」
いやがるテワスを無理矢理に彼は家路をとらせた。
そして、そのまま消息を絶ってしまった。
近藤巡査が行方不明になったという奇怪な噂が町に流布された時、ある者は彼がどこかへ失踪したのではないか、と疑った。