Japanische Klassiker mit Furigana
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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Lesen Sie 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.271 Zeichen · 263 Bildschirme
市郎も心許なさに其後を追って行くと、唯ある樅の大樹の蔭でトムが凄じく吠えていた。加之も堆かき枯葉を蹴って、何者かと挑み闘うように聞えた。
何か知らぬが、猶予はならぬ。市郎は洋杖を把直して、物音のする方へ飛び込んで見ると、もう遅かった。僅に一足違いで、トムは既に樹根に倒れていた。敵は髪を長く垂れた十五六の少年で、手には晃めく洋刃のようなものを振翳していた。薄闇で其形は能くも見えぬが、人に似て人らしく無い。
「若や山か。」と、市郎は咄嗟に思い付いた。で、先ず其正体を見定める為に、袂から燐寸を把出して、慌てて二三本擦った。この時、敵は血に染みたる洋刃を揮って、更に市郎を目がけて飛び蒐って来たが、其の眼前に恰も燐寸の火が溌と燃ゆるや、彼は電気に打たれたように、猝に刃物をからりと落して、両手で顔を掩ったまま、霎時そこに立縮んで了った。
この刹那に、市郎の眼に映った敵の姿は、頗る異形のものであった。勿論、顔は判らぬが、膚は赭土色で手足は稍長く、爪も長く尖っていた。身丈は低いが、小児かと見れば大人のようでもあり、猿かと思えば人のようでもある。この寒空に全身殆ど裸で、僅に腰の辺に獣の皮を纏うているのみであった。