Classiques japonais avec furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lisez ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) de 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 132 905 caractères · 262 écrans
もう疑う余地などない。新たに描き加えられた、頸から頭のあたりは、まだ一だん色調が淡いながら、尾を揮い脚を踏んばって、頂上さして走らんとする勢いだ。私は胸の支えがいっぺんにおりて、嬉しさにふるえた。
田の畔に腰をおろして、つくづく見入る。位置といい、規模といい、これなら山名の因となる必然性も、充分に具えている。かねて古老に聞いた、馬を追う人や曳綱さえ、歴々と見えるではないか。これは大出の旧家松沢元太郎氏の話で、当時楠川の発電所に勤め、俳句の趣味もある。私はこの人から、鑓ガ岳の鶴や鶏の雪形なども初めて聞き(後出)、その外にも年来の宿題解決にいい示唆を得た。その鑓の雪形も今日はハッキリ見えるし、乗鞍の種蒔き爺さん(これも今度初めて知った雪形、後出)も出ているし、この厳つい雪の列峯が、麓の里と見えない糸でつながれているような気がして、かつて幾度か見た景色を、まったく新たな感銘をもって、改めて見直すのであった。
里近い裾山にはまだ山桜が紅く、落葉松は銀緑の若葉に重味を加え、流水はゴボゴボ音をたてて畦にあふれ、農夫は女子供もまじって代掻きに懸命、畦道には枯芝の中に東菊が空をうつして碧く、茶を煮るか、そこらに焚火の煙が山風になびいて霞にとけ、鶯や黄びたきの声々……正に万象が冬眠から覚めて、活動期に入った趣きだ。