Classiques japonais avec furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lisez ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) de 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 132 905 caractères · 262 écrans
みな、客というより、家人のようになじんだ人たちだ、私もさすが胸がつまった。私の大きな荷物の中には、四尺にあまる鱒があり、折れぬようにと、宿で箱まで作ってくれた山の薯があり、お婆さんの丹精の、山萄葡のしぼり汁を詰めた瓶もある。こうして、藍の色濃い山蔭を、ふり返りふり返り、一と曲り、一と曲りとぬけ出る私は、きつく感慨をかみしめるばかり。そして、次から次と現われる谷々の奥を、久しぶりに、ふり仰いだ時は、これが足かけ四月前、夏七月に分け入った折の、あの同じ谷間であろうとは、とても信じ難いほどの、異様の光景なのに驚かされた……
峯々は、さながら、一種の華美にして沈欝な、鮮麗にしてしかも陰惨な、奇やしい錦繍の衣を引きまとって、屈み加減に凝然と、結跏し趺坐しているのである。そこに何らの動揺もない。真に寂静の極だ。明刻のあまり遠近を分たず、ほとんど空間を絶しているかのようだ。見ているうち、何とも言いようのない、ある幽妙な気分に引き込まれてゆく。有の至境であって、また無に近い相ではあるまいか。現世を超えて、ふと、あの世を垣間見た――そういった風な霊感におそわれる……