Classiques japonais avec furigana
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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Lisez 丹下左膳 (たんげさぜん) de 林 不忘 (はやしふぼう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 340 187 caractères · 666 écrans
かれはむっくりと起きあがって、窓明りに坤竜丸の鞘を払った。
うすぐらい部屋に、一方の窓から流れこむ陽が坤竜丸の剣身に映えて、煤だらけの天井に明るい光線がうつろう。
冬近い閑寂な日、栄三郎は、千住竹の塚、孫七の家の二階にすわって、ながいこと無心に夜泣きの脇差を抜いて見入っている。鍔元から鋩子先と何度もうら表を返して眺めているうちに、名匠の鍛えた豪胆不撓の刀魂が見る見る自分に乗り移ってくるようにおぼえて、かれは眼をあげて窓のそとを見た。
竹格子を通じて瑠璃いろの空が笑っている。
小猫の寝すがたに似た雲が一つ、はるか遠くにぽっかりと浮かんでいるのが、江戸の空であろう……栄三郎は刀をしまうと、こんどはぽつんと壁によりかかって、眼をつぶって考え出した。
世の中はすべて思うままにならないことの多いなかに、一ばん自分でどうにでもできそうで、それでいていかんともなし難いものがみずからの心であるような気を、彼はこのごろ身にしみて味わわなければならなかった。
それはことに、かれが鉄斎先生の娘弥生どのを思いおこすごとに、百倍もの金剛力をもって若い栄三郎を打つのだった。