Classiques japonais avec furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lisez 伸子 (のぶこ) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 232 543 caractères · 466 écrans
伸子は静かに扉をあけた。
「ただいま」
佃はそこにいなかった。弟達もいなかった。夜気のうちに母一人であった。伸子は、我知らず捜し求めるように室内を見廻した。
「雨になって困ったろう?」
多計代は、雑誌を伏せ、時計を見た。
「いいえ、俥をいただいて来たから……父様まだだってね」
「――今夜はきっと遅かろうよ、例によって焼物の御連中だから……」
彼女は、沈着な観察的な視線で、コートの紐を解いたなりで坐っている伸子を見た。
「着物でも着換えておいで」
伸子は素直に立った。急ぎ足で、彼女は自分の部屋の襖をあけた。佃は机の前にいた。
「ただいま」
「お帰り」
彼は、入って来た伸子に背を向けて坐ったまま、首も廻さず答えた。――これも自然ではない。何があったのだろう。――伸子は、母と佃との間に不快が流れているのを察した。伸子は、岩乗な、無愛想な、自分の力では押すも引くもできない崖に、左右から挾み込まれたような困惑を感じた。
伸子は、着かえてからまた母のところへ行って見た。多計代は、彼女の来るのを待ちかねていたらしく、いきなり制し切れない率直さで云った。
「佃さんという人はよほどどうかしているね」