Classiques japonais avec furigana
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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
Lisez 火星の魔術師 (かせいのまじゅつし) de 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 151 120 caractères · 302 écrans
「え……」
はっとベッドの上から入口を見ると、同じ病棟のマダム丘子が、歯刷子を持って笑っていた。
「や、オハヨウ……」
「いい朝ね、ご覧なさいよ、百合が咲いてるわ」
「そう」
私は体温計を抜くと寝衣の前を掻きあわせながら、水銀柱を透かして見た。
(六度、とちょっと……)
呟いた。
(気分がいいぞ――)
足の先でスリッパを捜ってつっかけた。
「どれ――」
「ほら、あんな高いとこよ」
マダム丘子の透通るような白い腕が、あらわに伸べられて、指の先きに歯刷子がゆれた。
私は、丘子の透き出た静脈の走る二の腕から、強いて眼をはなして崖を見上げた。
「ほお、なるほど……」
「あの花粉――っていうの魅惑的ね、そう思わない……露に濡れた花粉だの蕊だのって、じーっと見てると、こう、なんだか身ぶるいしたくなるわ……ね」
「そお……」
私は爛熟し切って、却って胸の中がじくじくと腐りはじめたのであろう丘子の、裸心にふれたような気がした。
マダム丘子はハデなタオルの寝衣を着ていた。それはパジャマではなかったが、断髪の丘子に却って不思議な調和を見せていた。
「お先きに――」
マダム丘子は光った廊下をスリッパで叩きながら洗面所に消えた。