Classiques japonais avec furigana
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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Lisez 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 185 496 caractères · 368 écrans
見えた。
「南無三宝! ム――ッ」
とばかりに、兵庫は心顛倒し、痣の浪人の存在を忘れ、右内の方へ駈け出そうとした。
と痣の浪人の体が、ユラリとそっちへ位置を変えた。
依然として蛇の腹かのような、蒼白い刀身が差しつけられている。
「ムーッ」
と息を詰め呻いたものの、兵庫はその刀の切っ先に抑えられ圧せられ挫かれて、一歩も進むことが出来なかった。
その間も右内の舁ぎ上げられた体は、月光と靄との畷道の上を、町の方へ運ばれて行く。
やがて姿が見えなくなった。
と、痣の浪人であるが、そう知ったと見えてスルスルと下がり、クルリと兵庫へ背中を向けると、まったく兵庫を無視した態度で、これも燈火のチラツイている、町の方へしとしとと歩き出した。
あくまでも嘲弄したこの態度に、兵庫の心は掻きむしられた。
「悪漢!」
背後から右肩を袈裟掛け!
「うふ」
鬼神だ! その早業! 痣の浪人は振り返りざま!
閃光!
「わッ」
「チェッ」という舌打ち!
見よ兵庫は地に仆れ、舌打ちをした痣の浪人は、いつか刀を鞘に納め、懐手をしたまま悠々と、町の方へ歩いて行くではないか。
それから十日ほどの日が経った。