Classiques japonais avec furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lisez 道標 (どうひょう) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 846 457 caractères · 1672 écrans
彼が自殺した。その衝撃があんまり大きくて、父の泰造が自筆でモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にいる姉娘の伸子のために書いてよこした手紙にも、葬式のことはわれしらず省略されていた。保は死んだ。ただ一つの動かすことのできない事実。しかも、伸子にとっての保は、きょうも二十歳の高校生で、ぽってりとした上瞼をもち、口ひげのある上唇をもち、あどけなく両手でふとり気味の膝をたたいて笑う生きた保である。
愛するものが死ぬと、そのおもかげから、年月の間にかさねられているさまざまのやさしい思い出までが、いっしょに死んで、生きのこったものの心から消えてしまうものだとしたら、人間にとって死は、どんなに動物の生き死めいた、たやすいことになるだろう。死んでしまった。どこに求めても、もうその生きた姿は、その人を忘れない者の心のなかにしかない。そこがつらい。
子供をなくした須美子の手をかたく握って、伸子はやっと、
「しっかりしてね」
ということができただけだった。
死が窮極には、生のなかにしか――生きているものにとってしか存在しないという事実は、何と意味ふかいだろう。伸子はしみじみと、その点について考えるのだった。