Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

Lisez 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 203 094 caractères · 411 écrans

Aozora Bunko

彼は古びた甕のようなものを抱えていた。

「沼の水はきたない。これをお使いなされ。」

「おお、其方か。」と、権右衛門は一方の眼を誇り顔に晃らせた。「先刻は大儀じゃ。姫も家来もこの通りじゃ。」

男は黙ってうなずいて、その水甕をうやうやしく権右衛門の前にささげた。

「清い水か。」

「はい。あちらの村から汲んでまいりました。」

「それはかたじけない。」

権右衛門はその甕の水を手にすくって、渇いているままにひと口呑んだ。それから両の手のひらに注がせて、まず左の眼を洗った。つづいて右の眼をも洗った。

「いかがでござりまする。」と、男は訊いた。

「おお、これで両眼もすがすがしゅうなった。」

彼はさらに額の傷を洗って、白布で幾重にも鉢巻をすると、眇目の男は水甕を振って見て、他の家来どもに言った。

「水はまだ少しある。どなたかお飲みなされぬか。」

「おお、わしにくれ。」

手負いの新九郎はその甕をうけ取って、甕の口からひと息にこころよく飲み干してしまった。かれらの前に燃えている焚火も、もうだんだんに消えかかって来た。

「もういい。いざ行こうぞ。」

権右衛門は起ち上がろうとして、にわかに眼でも眩んだように、堂の縁に再びどっかりと腰をおろした。