Classiques japonais avec furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Lisez ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) de 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 132 905 caractères · 262 écrans
原をなお南へ進めば、山の背は細くなって、西側に堀のような池が二、三ある。そのさきで平らは尽き、細い尾根は急に高まって、白檜、岳樺、かえでの類が茂りあい、巨岩が立つ上で一高処に達する。東方の窪地に木隠れて、かなり大きな池を見おろすが、やぶのため近寄ることは出来ぬ。
長さ一キロにあまり、幅は数百メートル内外の山背に、池が目ぼしいもので十数面、小さいのを入れれば二十にもあまろう。水は年中涸れぬという。左俣の中ぞらに浮んだような位置だけに、東に槍、穂高の長壁、西に弓折から抜戸の連嶺、南に遠く焼岳から乗鞍、御岳、北は西鎌尾根が屏風を立てる。山はいかつく、原はやさしく、抜戸や穂高の滝谷にはまだ残雪が光り、槍、奥穂などが池水に影をひたすのも妙で、とくに夕陽に映える大槍が、小やりもろ共、池水をも沸かさんばかり燃え残るところなど、不思議な美しさである。
穂高の長壁と穂影ノ池の挿図
人跡はまったく無かった。空カン一つ紙きれ一枚、目に入らぬ。これは今どき珍らしい。そのかわり獣の跡はひんぱん。姿を見せたのは兎だけだが、足跡は池畔の沙泥の上に、歴々と印せられ、熊、羚羊、狐……と入り乱れてなまなましく、特に南の堀状の池に最も多かった。