Classiques japonais avec furigana
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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Lisez 丹下左膳 (たんげさぜん) de 林 不忘 (はやしふぼう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 340 187 caractères · 666 écrans
うす靄のような暮気があたりを包んで、押上、柳島の空に夕映の余光がたゆたっていたのも束のま、まず平河山法恩寺をはじめとして近くに真成、大法、霊山、本法、永隆、本仏など寺が多い、それらの鐘楼で撞木をふる音が、かわたれの一刻を長く尾をひいて天と地のあいだに消えてゆく。
暮れ六つ。
鈴川方化物屋敷の裏手、髪を振りみだした狂女のようにそそり立つ椎の老樹の下にこわれかかった折り戸と並んで、ささやかな物置小屋が一つ、古薪木や柴に埋もれて忘れられたように建っている。
かつて、櫛まきお藤が与吉の口から弥生に対する丹下左膳の恋ごころを聞かされて一変、緑面の女夜叉と化したあの場所だが。
今は。
這いよる宵やみのなかに剣打のひびき阿の声が奥庭から流れてくるばかり――座敷まえの芝生には、お捕方を相手に左膳が隻腕一刀の乱劇を演じていることであろうが、うらに面したここらは人影もなく、ただ空低く風が渡るかして、椎の梢が、思い出したようにうなりながら、寒天にちりばめた星くずをなでているだけだった。
もの淋しい夕景色。
と! この時。
物の怪にでも憑かれたように、フラフラとこの庭隅に立ち現われた一つの黒法師がある。