Classiques japonais avec furigana
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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Lisez 丹下左膳 (たんげさぜん) de 林 不忘 (はやしふぼう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 340 187 caractères · 666 écrans
ありがたい――」
栄三郎が、小豆を買って来たらしい。露地に、あし音が近づいていた。
早い月の出……。
下りきった夕ぐれの色が煙霧のようにただよって、そこここの油障子から黄色な光線の筋が往来に倒れている。
どこかの鐘の音が遠く空に沈んで、貧しい人々の住む町は、宵の口からひっそりとしていた。
たたき大工の夫婦、按摩、傘張りの浪人者、羅宇屋――そして、五十近いその羅宇屋の女房は、夜になると、真っ白な厚化粧に赤い裏のついた着物を着て、手拭をかぶってどこかへ出かけてゆく。そうすると、火のつくように泣く赤児を抱いて、羅宇屋が長屋中を貰い乳してまわる……このあたりは絶えて輝しい太陽の照ったこともなく、しじゅうジメジメと臭い瓦町の露地奥だ。
いま、小豆を買って帰る途中の栄三郎、露地へはいろうとして、角の酒屋の灯火を全身に浴びるといつものことながら、はッとして足のすくむのを覚えた。
みずからのすがたである!
湯島あたりのかげまか、歌舞伎の若衆でもなければ見られない面映ゆい扮装……。
ものもあろうに風流べに絵売りとしての自分には、たとえそれが世を忍ぶ仮りの生業とはいえ、根津あけぼのの里小野塚鉄斎道場に鳴らした神変夢想流の剣士諏訪栄三郎または御書院番大久保藤次郎実弟と生まれた諏訪栄三郎――どうしてこれが恥じないでいられようか