Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
ふくいんさつじんじけん
復員殺人事件
Lisez 復員殺人事件 (ふくいんさつじんじけん) de Sakaguchi Ango (坂口 安吾) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 96 621 caractères · 195 écrans
彼には右手がなく、左足がなかった。つまり、定夫の曰く丹下左膳現代版なのである。おまけに、丹下左膳は片目であるが、彼は両眼が失明し、砲弾の破片に片アゴをもぎとられ、鼻はつぶれ、言葉を喋ることまで、できなかった。
この現代版丹下左膳は、なれない左手で倉田由之と書いたものを駅員に示し、タクシーで、この玄関まで乗りつけたのだが、その変り果てた風貌から、家内の誰一人、これを安彦と認定することが出来なかった。無理もない。彼の顔は弾片でえぐられたデコボコの道路のようなもので、特定の人相を失っているのであった。
言語も視力も失ったこの怪人が、しきりに突き出して見せるのは、その残った左手であった。取次にでた女中のスミ子(重吉の娘)が、これを物乞いとカン違いをしたのは当然であるが、あまりのシツコさに、起久子、由子、美津子らも現れ、やがて美津子が閃くように、左手を差出す意味をさとったのである。
安彦は応召の前夜、昭和十七年の日記帳を厳重に封じて、ひそかに美津子に托して行った。自分が戦死した時に、中をあけて見るように、と言い残して。
然し、それと同時に、彼は、酒の酔いに乗じ、遺品と称して、左手の手型を紙に残した。