Classiques japonais avec furigana
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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Lisez 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) de 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 346 393 caractères · 692 écrans
巣をかえてから、笹村の足の遠のいていた女のことは、もはやお銀の頭に何の煩いをも残さなかったが、そんなことでしばらく紛らされていた笹村の頭は、前よりも一層落着きを失っていた。そして年々煩わしさの増して行く生活につれていろいろに分裂している自分の心持を支えきれないような気がしていた。
その日は雨がじめじめ降っていたが、汽車から眺める平野の青葉の影は、しばらく家を離れたことのない笹村の目に、すがすがしく映った。汽車は次第に東京の近郊から離れて、広い退屈な関東の野を走った。笹村の頭には今まで渦のなかにいるように思えた自分の家、家族の団欒、それらの影がだんだん薄くなって来た。そして今行こうとしている町の静けさと自由さが、沈澱したような頭に少しずつはっきりして来た。どこへ旅しても、目は始終人や女の影を追うていた七、八年前の心持が、今と比べて考えられた。西の方へ長い漂浪の旅をした時は、ことにそうであった。家族と一緒に歩いている旅客を、船や汽車で見た時は、一層その念が強かった。その時の笹村の心には、どこへ行っても自然は気をいらいらさせる退屈な田舎の松並木に過ぎなかった。