Classiques japonais avec furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lisez 次郎物語 (じろうものがたり) de 下村 湖人 (しもむらこじん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 159 223 caractères · 320 écrans
それも彼の本能の一つであったといえないことはないかも知れない。しかし、そのために、彼が次第に身動きが出来なくなって来たことはたしかだった。しかも、時としては、彼は、そのために、心にもない善行にまで逐いつめられることさえあったのである。
ある日彼は、おりおりこの村にやって来る顔馴染の肉屋が、近所の農家の前に目籠をおろして、肉を刻んでいるのを見た。その時は、ちょうど学校の帰りがけで、村の仲間たちと一緒だった。仲間たちは、肉屋を見ると、すぐそのまわりを取り巻いた。巧みな出刃の動きにつれて、脂気のない赤黒い肉が、俎の片隅にぐちゃぐちゃにたまっていくのを、彼らは一心に見入った。空がどんよりと曇って、むし暑い空気の中を、肉の匂いがむせるように漂った。
次郎も、一緒になって、しばらくそれを見ていたが、ふと彼は、母が毎日飲む肉汁の事を思い起した。「鶏の肉汁にはもうあきあきした。何か変ったものはないかしら。」……そう言って眉根をよせながら、肉汁を啜っている母の顔が眼に浮かんで来た。「今度肉屋が来たら、一度牛肉にしてみようかね。」――祖母のそうした言葉も同時に思い出された。