Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 261 216 caractères · 521 écrans
鳴門秘帖
お千絵様
お千絵様
さて、その後またどうしたろうか、お千絵様は?
かの女の今の環境はしずかであった。爽やかな京の秋がおとずれている。
部屋の前はひろい河原で、玉砂利と雑草とを縫う幾すじもの清冽は、加茂の水と高野川の末がここで落ちあっているのだと、和らかい京言葉をもつ小間使に教えられた。
そこは、京の下加茂にある、所司代の茶荘であった。柳の並木を境に、梶井伏見家などの寮園があり、森の隣には日光別坊の屋根が緑青をのぞませている。
河原に向った数寄屋作りは、お千絵のために建てたように居心地のピッタリ合った部屋だった。
お千絵はそこの窓から、毎日、加茂の水を見ていた。今も、侍女とは口もきかずに、じっと、そうしているのである。
「弦之丞様……弦之丞様は?」
と、ひねもす河原に啼いている虫とひとつに、思いつめて水を見ている。
しかし、その愛人の消息はおろか、まだ自分自身の境遇さえ、いったい、どう変って、どこへ向っているのか、夢のようで思い当たれないお千絵であった。
病気は、江戸にいた頃から、少しずつよくなっていたので、墨屋敷以来のことは、かすかに想像がついた。けれど、周囲の者は、あの乱心が二度ぶり返ってきたら、こんどこそは癒るまいと医者の注意をうけているので、何をたずねても、肝腎なことは、少しも話してくれなかった。