Classici giapponesi con furigana
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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
Leggi 竹柏記 (ちくはくき) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 45.798 caratteri · 91 schermate
孝之助はまさかいっしょに立ってゆくわけにもいかず、まごつきはしないかと案じていたが、杉乃はそのまま三献の膳が配られても戻って来なかった。
「一つ差上げましょう」右隣にいた藤井という老人が、盃をさしながら云った、「――どうやら奥方は御帰館とみえますな」
なにげなく云ったらしいが、孝之助はそうかと思い当り、うちのめされたような気持になった。
――そうだ、もう帰るべきときだった。
八束が招待した意図は、もう明瞭である、もうとうに帰ってもよかったのだ。杉乃はけなげに辛抱したが、ついにがまんが切れたのであろう。
――念のいった失敗だ。
こう思ったが、それですぐ、帰るわけにもゆかず、暫く藤井老と話してから座を立った。
八束に挨拶はしなかった。向うでもそこまで求めてはいないであろうし、挨拶することは却って厭味になると思った。
家へ帰る足は重かった。自分というものがじつに小さな、愚かしい、みじめな存在に思えた。十年まえ、八束は役目のうえで不正を犯した。洗濯町で大雲寺ヶ原で、堕ちるだけ堕ちた姿をみせた。しかし彼は立派に立ち直りその才能を充分に生かした。かつてあれほど堕落しながら、みごとに彼は勝ったのだ。