Classici giapponesi con furigana
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よせ
圓太郎馬車 正岡容寄席小説集
正岡 容
Leggi 圓太郎馬車 正岡容寄席小説集 (よせ) di 正岡 容 (まさおかいるる) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 147.226 caratteri · 295 schermate
二
「…………」
あわてて手の甲で涙をこすって、ソッときまり悪そうにあたりを見廻して見て、
「ア、いけねえ」
今松は小さく叫んだ。
二軒目佐竹の富本を出て、称念寺の真っ暗い黄楊垣を右に、いつか自分は忘れようとて忘れられない別れをした、あの腰屋橋のあたりまでさしかかってきていたのじゃないか。朧の夜の中に眠ったように新堀の水が流れ、鯉寺のあたりには白く桜の花の塊がうるんでいる。今夜もいつかの晩のように、おでん屋が屋台を出していて、浮気に灯の色がまたたいている。
それらの景色、あまりにもまだ今松の目には、痛かった。
切なかった。
いや、今また容赦ない注射針が身体へ、今度は一段と痛い辛い塩水が注ぎ込んでくる思いだった。
泣くまじと今松は歯をくいしばった。
二
胸締めつける思い出は、まだまだ東京中のそこにもここにも残っていた。
最後の本意ない別れをしたのこそ新堀端であったけれど、古着屋の庇連ねた佐竹の細い賑やかな通りも、よく一緒に歩いたところだっけ。
暮れ方の薄汚れた三味線堀のふちに立ってボンヤリ水の面を眺めていたとき、ポンとお艶ちゃんに肩を叩かれたこともあったっけ。