Classici giapponesi con furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Leggi 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 262.100 caratteri · 523 schermate
こう呟いたら、向うでそれを緒口にして、なんとか声をかけて下さりはしまいか――というはかない頼みの溜息なのである。
瓦小屋の柱に凍りついてしまったように、お綱はジッとして動かなかった。
「ひどい雷鳴でした……」とか、「お一人でございますか」とか、今に向うの瓦小屋から、弦之丞が話しかけてくれはしまいかと、きまり悪さの物騒ぎを押さえている。
「小娘でもない年のくせに、私はなんていう初心なんだろう」
お綱は、急に自分がいとしくなった。
こんないとしい吾身を、初めて見出したように、自分と弦之丞の姿とを、偸みめにそッと見くらべたお綱の素ぶりには、あばずれた所などは塵ほども見えず、まったく、純なはにかましさだけがこぼれていた。
義仲寺の鐘であろう、大きく八刻を打った。
打出ヶ浜の波音にまじって、鐘の余韻が遠くうすれて行くと、弦之丞はフイと立って、向うの瓦小屋から歩みだした。
その人にはまたその人の懊悩がある。行くに行かれぬ江戸を偲び、逢うに逢われぬお千絵の境遇を偲びやって、帰ることも夜更けたことも忘れていたが、四更の鐘を聞くとにわかに気がついたものであろう。弦之丞の白い姿が、松の間を縫ってピタピタと帰りかける。