Classici giapponesi con furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Leggi 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 262.100 caratteri · 523 schermate
惑うているまにも、お綱は、あまりに好ましい香気に、酔わされるような、溶けゆくような気持になった。その香気は、日向に蒸れる薫梅のような陽香ではない。ちょうど、日かげにつつましく匂っている丁子の花を思わせる陰香である。
いつのことであったか。
お綱は、挿花の師匠になりすまして、さるお屋敷の聞香の席にまじっていたことがある。
その時、雁金香であるとか、菊水であるとか、新月、麝香木などと、おのおのが自慢に焚くのを眺めて、まア、この人たちは、なんというばかばかしい悠長な遊びをしているのだろう、小判を欠いて焚くような、たかい名香を煙にするくらいなら、骨牌でもしたらよかろうに、と隅であくびを噛んでいたことであった。
で――この匂いを、何香とさぐり当てる力はないまでも、それに近い物の薫りだ、というだけは確かめられた。
それはそれと分ったが、さて、誰が? どこで? このいい匂いをたてているのか――となると、皆目判断がつかなくなる。
お綱は、も一度、眸をこらして見廻した。
しかし何べん見ても、そこ一面は、やはり厚ぼったい闇が陰湿にこめてあるのみだ。
と。お綱の目が、向うの隅へ、はッと、吸いつけられたのである。