Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
黒い服を着て大きな眼鏡をした先生は、彼の欠席していたことについては何も訊ねようとしなかった。
――彼は久し振りに学校へ出掛けて行く中学生のようであったが、その昔の中学生がまだ根強く心の隅に蔓っているのであった。就職が決まりそうになると、女中のたつは、この生活の変化にひどく弾みをもち、靴下や手袋を新しく買いととのえて来てくれた。弁当箱も、それはこの頃既に巷から影を潜めていたが、どうやら手に入れることが出来た。
とらえどころのない空がどこまでも続いており、単調な坂路がはるかに展がっている。その風景は寒くて凍てついていたが、どこかにまだギラギラと燃える海や青野の悶えを潜めているようで、ふと眩しく強烈なものが、すぐ足もとにも感じられた。空漠としたなかにあって、荒れ狂うものに攫われまいとしているし、径や枯木も鋭い抵抗の表情をもっていた。だが、すべてはさり気なく、冬の朝日に洗われて静まっている。
坂の中ほどまでやって来ると、視野が改まり、向うに中学の色褪せた校舎が見えたが、彼の脚はひだるく熱っぽかった。家を出て電車で二十分、ここまで来ただけで、もうそんなに疲労するのだったが(荒天悪路だ、この坂を往かねばならぬのだ)と、彼は使い慣れぬ筋肉を酷使するように、速い足どりで歩いた。