Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
その癖、自分の魂は壊れもののようにおずおずと運んでいるのでもあった。彼には今の家に置いて来たもう一つの姿が頻りに気に懸った。それは今もじっと書斎の机に凭り、――彼方から彼の心の隅を射抜こうとしている。戸惑った表情の儘、前屈みの姿勢でせかせかと歩いている姿は、かえって何か影のように稀薄なものに想われて来る。彼は背後に、附纏う書斎からの視線を避れるように急いで中学の門へ這入って行く。そうして、その小さな門を潜った瞬間から、ともかくあの書斎からつき纏って来たものと別れることが出来た。だが、そのかわり今度は更に錯綜した視線の下に彼は剥出しで晒されるのであった。
――その夜、睡ろうとすると、鼻腔にものの臭いがまだしつこく残っているのを彼は感じたが、たしかそれは今日の昼間、小使室で弁当を食べた時嗅いだものに他ならなかった。その日、はじめて彼も教員室へ入ったが、そこにはいろんな年配のさまざまの容貌をした教師たちが絶えず出入していた。弁当の時間になると、日南の狭い小使室に皆はぞろぞろと集っていた。彼はその部屋の片隅で、佗しいものの臭い――それは毛糸か何かが煉炭で焦げるような臭いであった――を感じた。