Classici giapponesi con furigana
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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
Leggi 娘煙術師 (むすめえんじゅつし) di 国枝 史郎 (くにえだしろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 267.766 caratteri · 530 schermate
しかしそういう眼つきのために、表情は穢されてはいなかった。むしろそのために老売卜者の顔は、悲壮にも見え純真にも見えた。
往来を人波はうねっていたが、店へ立ち寄る者はなかった。で売卜者は鼻の先を黒表紙の易書であおぎながら――すなわち塵埃を払いながら、無心に人波を眺めていた。
その時呼び声が聞こえて来たのである。
「お気をおつけなされ、今日があぶない! お手前の人相をご覧なされ!」
で、ギョッとして老売卜者が、声の来たほうへ眼をやった時に、儒者ふうの老人を目つけたのである。「おお!」という声が筒抜けた。老売卜者が漏らしたのである。「おおこれはどうしたのだ、大先生が歩いておられる。大先生に相違ない。背後姿だが見覚えがある。……とはいえどうにもおかしなことだ、大先生なら去年の四月に、三宅の島で逝去なられたはずだ!」
つぶやきながらも老売卜者は、懐しさ類うべきものもない――牀几から、腰を上げると立ち上がって、両手を見台の上へつくと、毛をむしられた鶏の首のような細いたるんだ筋だらけの首を、抜けるだけ長く襟から抜いて、儒者ふうの老人を見送った。
「本郷の殿様」と呼ばれた武士や、代官松がつぶやいたところの、つぶやきと同じようなつぶやきを、老売卜者もつぶやいたのであった。