Classici giapponesi con furigana
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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Leggi 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) di 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 240.656 caratteri · 478 schermate
あったればこそ、生かして連れて来たことがお叱りの種にもなったのです。この雲行から察すると、治右の手がすでに将軍家にまでも伸びているのは言うまでもないこと、一言半句の失言があっても、御気色は愈々険悪、恐るべき御上意の下るのは知れ切ったことでした。
しかし主水之介は、森々沈着、神色また自若、しいんと声を含んで氷のごとく冷たく平伏したままでした。
その頭上へ、立ちはだかったままの将軍家の尖げ尖げしい声がふたたび落ちかかりました。
「憎い! 憎い! 憎いと申すも憎い奴じゃ! 不埓者めがッ。顔あげい!」
「………」
「なぜあげぬ! 顔あげてみい!」
「………」
「あげぬな! 不届者めがッ。それにて直参旗本の職分立つと思うか! たわけ者めがッ。治右よりその方の不埓、逐一きいたぞ。お紋を何と心得ておる! 言うも憎い奴じゃ! 顔あげてみい!」
しかし主水之介は、ことさらに押し黙って、しんしんと静かに平伏したままでした。賢明な策です。立ちはだかったままで、お褥も取らないほどに御癇癖が募っている今、何を申上げたとてお耳に這入る筈はないのです。ないと知って、とやかく弁明したら、弁明したことがなお御癇癖に障るは必定、障ったら切腹、改易、お手討ち、上意討ち、黒白正邪をつけないうちに、只お憎しみ一途の御諚が下るのは知れ切ったことでした。