Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

Leggi 春いくたび (はるいくたび) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 70.094 caratteri · 142 schermate

Aozora Bunko

「お兄さま……」

声をかけながら、向うから妹の加代が走ってきた。

「加代ではないか、どうした」

「山県さまも御一緒に」

というところへ、老僕六平が付添って駕がきた、中から半身を乗出すようにして、

「村松氏、御無事か」

と銀之丞、――見るより春枝は走りよって、

「兄上さま」

「おお春枝、そなたも無事でか」

「村松さまのお蔭で、菊一文字の御刀も取戻すことができました」

「おお!」

妹の肩を抱寄せた銀之丞、万感を双眸に籠めて、無言のまま三樹八郎の顔を仰見るばかり、――どんなに嬉しいか、三樹八郎にはよく分る、父の命を賭けた三年の辛苦が酬われたのだ。兄妹揃って、今こそ晴々と故郷へ帰れるのだ。

「短刀をお渡し申す」

差出すのを、受取った銀之丞は鞘を払って検めたが、

「たしかに、たしかに菊一文字、……これで父の命も助かり、山県の家名も相立ちます。――村松氏、お礼は申上げぬ、ただ拙者の胸中……お察しくだされい」

「お察し申す、礼などは素よりいうに及ばぬ、これもみな貴殿御兄妹の孝心を、武道の神が護られたのであろう、祝着に存ずる」

「ただかくのとおり」

駕の中で銀之丞が低頭すれば、妹春枝もまた、白い手を地について啜りあげた。