Classici giapponesi con furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Leggi 春いくたび (はるいくたび) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 70.094 caratteri · 142 schermate
兄はもうまえの兄ではない。顔つきも眼の光も、かつて見たことのないほどあらあらしくかわっている。そして骨もくだけるような力で若菜の手首をつかんだまま、ずるずるとひきずりながら小屋の外へつれだした。
「お兄さま、あなたはわたくしを!」
「なに、しばらくのしんぼうだ」
伝四郎は妹のさけびをひややかにさえぎって、
「おれが出世をすればまた自由の身になれるさ」
「――はなしてください」
若菜は全身の力をこめてさからった、しかし伝四郎はもうなにもいわず、恐しい力でひきずりながら、石塁にそって五十歩ばかり行ったが、やがて番所といえる小屋の前まで来ると、
「――番頭殿はおられますか」
とよびかけた。
「誰だ」
「菊池伝四郎でございます」
「よろしい、はいれ」
へんじをきいて伝四郎はなかへはいった。雑兵が三人ほど、ほかにひげをたてた鎧武者が一人、燭台をひきよせてなにか書いていた。
「……なにか用事でもあるか」
「大村軍の者がここへしのびこんできていました」
「なに!」
鎧武者は筆を投げだしてぎろりと眼をあげた。
「この娘です」
伝四郎は若菜をつきはなして、
「大村城の武士の娘です、どうやら人夫共にまぎれこんできたようです」