Classici giapponesi con furigana
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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
Leggi 武州公秘話 (ぶしゅうこうひわ) di 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 107.572 caratteri · 209 schermate
それに證拠も證人もなしでは、名のり出たとしても誰が信じてくれるだろうか、昨夜本丸へ逃げ帰った際に、すぐにでも届け出れば信じて貰えたであろうけれども、彼は寝床へもぐり込む前に血の附いた衣類などを悉く大篝り火の中へ投げ込んで、むしろ證拠を堙滅するのに骨を折った。今ある唯一の證拠としては、そっと紙に包んで懐に入れている鼻があるが、それを持ち出したら彼の大事な秘密がバレルのは云う迄もない。
そんなことよりも法師丸は、昨夜あれ迄順調に運びながら、最後の瀬戸際で折角の計畫が齟齬したのが残念でならなかった。恐らく敵の陣中では昨夜に懲りて警戒を厳重にするであろうから、もう二度とあんな工合に都合よく忍び込むことは出来ないであろう。
彼はとき/″\人のいないのを見定めては懐から例の肉片を取り出して私かに空想に耽っていた。彼の脳裡には、鼻を斬った刹那の屍骸の顔がはっきり印象されていて、それが、その肉片を取り出すたびに一層あざやかに想い出されるのであったが、それにつけても、あゝ、あの首がありさえしたらと思うと、いっそもう一度盗みに行きたくなるのだった。何しろ総大将の屍骸であるから、あれは今もあの陣営の奥の間に、鄭重に安置されていることだろう。