Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

Leggi 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) di 菊池 寛 (きくちかん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 37.146 caratteri · 74 schermate

Aozora Bunko

一一

酒宴の席に帰った藤十郎は、人間の面とは思えないほどの、凄じい顔をしていた。が、彼は、勧められるままに大盃を五つ六つばかり飲み乾すと、血走った眼に、切波千寿の方を向きながら、

「千寿どの安堵めされい。藤十郎、この度の狂言の工夫が悉く成り申したわ」と云いながら、声高に笑って見せた。が、その声は、地獄の亡者の笑い声のようにしわがれた空っぽな、気味の悪い声であった。

×

弥生朔日から、万太夫座では愈々近松門左が書き下しの狂言の蓋が開かれた。藤十郎の茂右衛門と切波千寿のおさんとの密夫の狂言は、恐ろしきまで真に迫って、洛中洛外の評判かまびすしく、正月から打ち続けて勝ち誇っていた山下座の中村七三郎の評判も、月の前の螢火のように、見る影もなく消されてしまった。

が、この興行の評判に連れて、京童の口にこうした話が伝えられた。それは、『藤十郎殿は、この度の狂言の工夫には、ある茶屋の女房に偽って恋をしかけ、女が靡いて灯を吹き消す時、急いで逃れたとの事じゃが、さすがは三国一の名人の心掛だけある』と云う噂であった。

『偽にもせよ、藤十郎殿から恋をしかけられた女房も、三国一の果報者じゃ』