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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
「おれもいっしょにいくんだ」文次は胸を押えた手に力を入れた、「おれもあいつも、この世ではまともに生きることのできねえ人間なんだ」
「あたしこの人が好きだったのよ」
「おめえは知らねえんだ」
「知ってるわ、みんな知ってるわ」と娘は乾いた声ではっきりと云った、「この人がどんないけないことをしたか、世間でこの人をなんて云ってるか、あたしちゃんと知ってたわ、でもあたしはこの人が好きだった、あたしならこの人をまともな人間にしてあげられると思ったし、そうでなくっても、この人のためならどんなに苦労してもいい、どんな悲しいおもいをしてもいいと思ってたのよ、それを兄さんは殺しちゃったのね」
「ちがう」と文次は首を振った、「おらあおめえの兄なんかじゃあねえ」
「あんたは昔からひどい人だった」と娘は構わずに続けた、「小さいときから手に負えないことばかりして、うちじゅうの者がいつも肩身のせまいおもいをしていたわ、そればかりじゃない、あんたはあたしのお小遣をぬすんだり、あたしを虐めて泣かしたり、あたしの大事にしている人形を幾つも壊したりしたじゃないの、忘れやしないでしょ」