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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
五
「木更津だったな」と彼はまた呟いた、「船賃も払ってあるって云ったっけ、――待ってくれ、政、いっしょにゆこうぜ」
娘はまだ叫んでい、やがて、文次の去ったほうから、幾つかの提灯の火が、こちらへ駆けつけて来るのが見えた。
五
空は白みかけていた。波の音もしない芝浜は、いちめんに濃い乳色の霧に包まれ、ときどき波のよせる音が聞えるほかは、海も、汀も見わけがつかなかった。夜釣から帰った漁師が五人、船をあげ終ると、一人が砂浜の上になにかみつけ、伴れの四人を呼んだ。かれらは集まっていってなにかを取囲み、一人が高い声で、べつの船の漁師を呼んだ。霧が濃いので、かれらの動きは影絵のようにしか見えないが、やがてその人数はしだいに多くなり、なにか云いあう昂奮した声が聞えた。そのうちに、中年の漁師が二人、こっちへいそぎ足にやって来た。
「やくざの喧嘩だな」と一人が云った、「どっかこの近所でやって、ここまで逃げて来て死んだんだろう」
「おい気をつけろ」と伴れが地面を指さして云った、「そこはよごれてるぞ、そら、こっちもだ、踏まねえようにしろよ」
初めの漁師は脇へよけ、注意ぶかく歩きながら云った、「番所で面倒なことがなけりゃあいいがな」