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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
三
そのとき店へ、三人の男がはいって来た。一人は四十がらみで、目明しとすぐにわかる風態であり、他の一人はさっきの百姓ふうの男、もう一人は職人のような恰好をしていたが、店へはいって来るなり、目明しとみえる男が「みんな静かにしろ」とどなった。その声の異様なするどさに、騒いでいた四人伴れをはじめ、みんなが話をやめて振向いた。すると、目明しとみえる男は、ふところから十手を出してみせた。
「御用である」と男は云った、「みんなそこにじっとしてろ、動くんじゃあねえぞ」
政は文次を見た。文次はやんわりとした動作で、立ちあがった。
三
「その野郎」と目明しふうの男は、十手を文次に向けながら叫んだ、「動くなと云ったら動くな、じっとしていろ」
文次は振向きもせず、躯が宙にでも浮いているような、軽い、なめらかな動作で、すっと板場のほうへ消えていった。極めてなめらかではあるが、板場と店とのあいだに掛っている繩暖簾の向うへ、彼の姿が消えたとき初めて、それがどんなにすばやく、的確な動作であったかがわかった。
目明しふうの男は呼子笛をするどく吹き、他の二人は文次のあとを追った。