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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
一
二
一
うすよごれた手拭で頬冠りをした、百姓ふうの男が一人、芝金杉のかっぱ河岸を、さっきから往ったり来たりしていた。日はすっかり昏れてしまい、金杉川に面したその片側町は、涼みに出た人たちで賑わっていたが、誰もその男に注意する者はなかった。やがて、「灘久」と軒提灯のかかっている、かなり大きな居酒屋から、職人ふうの男が出て来、それを認めたこちらの百姓ふうの男が、すばやく近よっていった。二人は並んで歩きだし、百姓ふうの男がなにか訊いた。片方は首を振った。二人はなおも囁きあったが、町木戸のところで引返し、こんどは百姓ふうの男が、「灘久」の繩暖簾を分けてはいっていった。
二
「おめえ少し饒舌りすぎるぜ」
「これも女をものにする手の一つさ」若いほうの男が云った、「冗談じゃあねえ、あにいだってゆんべは結構しゃべったじゃあねえか」
「ちえっ、ゆんべだってやがら」年上のほうの男は右手の指の背で鼻をこすった、「おれがゆうべなにを饒舌った」
「この辺の生れで、なんでも大きなお店の二男坊だったとか、二階造りの家に土蔵が三戸前もあったとか、小さいじぶんから暴れ者で、近所の者はもちろん、可愛い