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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
祝言の夜のことであるが、寝所で二人きりになると、松尾は冷やかな眼で彼を見、刺すような調子でこう云った。
「この縁組はあなたが殿さまに懇願なすってむりやりお纒めになったものですのね」
「そうです、殿にお願いするほうが簡単ですからね」
「ひと口に申せば、松尾はあなたの出世の足掛りというわけですわね」
「そうあればいいと思います」
「女がそういう結婚をよろこぶとお思いですか、結婚は一生のものです、そうしてそれは二人の愛情が土台になっていなければならないと思います、愛情もなしに、方便だけで結婚なすって、それで幸福にやってゆけるとお考えになれますか」
「ゆけるだろうと思いますね」
玄一郎は、穏やかに微笑した。
「結婚に愛情が大切だということはわかりますが、愛情が全部というわけでもないでしょう。また愛情というものは、結婚するまえよりも結婚してから、つまり良人となり妻となってから生れるほうが多いのではありませんか」
「それは動機が不純でないばあいですわ」
「――なるほど」
玄一郎は、相手からそっと眼をそらした。
「――しかし結婚の条件などというものは、一般にたいてい不純な要素があるものですよ」