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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「津田さんもお上手ではないようですね」

玄一郎は、話をそらすように笑った。

「評判では釣りの名手だと聞いていましたが、私に遠慮をなすっているというわけですか」

「いや、上手は釣らぬものですよ」

巨きな岩のうち重なっている間を、水は淀をなし瀬となって流れていた。両岸から蔽いかかる樹の茂みで、あたりは空気まで琅色に染まるかと思える。

秋にはいって木葉が色づきだすと、林の中で小鳥が冴えた音を張り、水勢のおとろえた流れをしきりに川下へと下る魚のすがたが見えた。

「私は貴方のお父上を知っておりました」

或るとき津田がそう云って、古い思い出をさぐるように、眼を細めながら空を見あげた。

「仁義に篤い、温厚な、まことに珍しい人でしたが、貴方にとっても、おそらくいい父親でいらしたろうな」

「――はあ、仰しゃるとおり、いい父でした」

「叱られたり折檻されたようなことがありましたか」

「いやありません」玄一郎も回想の懐かしさにひきいれられ、両手で膝を抱えながら太息をついた。

「――叱られもせず折檻もされないので、却ってもの足りなかったのを覚えています、……相当これで暴れ者だったのですが、なにか失策をすると父は悲しそうに黙ってしまうのです、母は母で泣くだけですから、――これは折檻されるより利きめがありました」