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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

玄一郎は刀を鞘ごととり、下緒を外して襷をかけた。悠々たるものだ、それから刀を抜いて、鞘を枯草の上に置いた。

「――あまりいい足場ではないな」

呟くように云って、まわりを見まわし、空を仰いだ。それから静かに刀を青眼にとり、左足を少しひいて益山を見た。

「――よかろう、いざ」

益山は刀の柄に手をかけたままである。まだときどき霧がながれる。ごく薄く条のようになり、布を引くように、――しかし天も地もすっかり明けはなれて、森の中ではしきりに鶫が鳴きはじめた。

抜刀流の手でもやるとみえたが、益山はふと五六尺うしろへ退り、刀を抜いて構えなおした。そのとき玄一郎の唇にあるかなきかの微笑がうかんだ。

「――益山安心してやれ、生命はとらない」

玄一郎は低い声で云った。

「――但し右の腕だけは貰った」

益山の刀が波をうった。息はあらく、呼気が強くなる。緊張のあまり眼は大きくみひらかれ、唇の間から歯がみえた。

益山の躯は幾たびも動作を起こそうとした、そのたびに刀が波をうった、だが玄一郎の青眼の切尖が先を押える、眼につかぬほど微かに、しかしきわめて的確に切尖がつつと揺れる。……それは益山が動作を起こそうとする瞬間と、その方向を「こうか」