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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
先代の伊賀守が隠棲するつもりで建てたのを、気にいりの庖丁人に与えたのだという。
いまわりも閑静だし、道の途中も林や野の眺めが美しかった。二人は話しながら歩いていったが、道が松林の中へはいったとき、いきなりその前へ五人の者がとびだして来た。
「笈川玄一郎、今日はのがさんぞ」
こう叫んだのは益山郁之助である。三次、上原、吉川、中野たち、みんな厳重な身拵えで、どうやら脱藩するつもりらしい、そのゆきがけの駄賃に意趣をはらそうというのだろう。
「いや大丈夫だ。八木、見ていろ」
玄一郎はおちついた声で、五人の者に眼をくばりながら袴の股立をとり、下緒で襷をかけつつ八木隼人に向ってこう云った。
「さっきの返辞をするが、二本松で立合ったのは一人さ、幾らおれだって十五六人いっぺんというわけにはいかない、――今日は五人だが、このくらいならいけるだろう、二本松では命はとりたくなかったからね」
益山郁之助は、右手の骨が折れている筈だ。見たところは変らないが、おそらく充分に刀は捌けまい。
あとの四人は二本松でもしりごみをしたくらいで、今日はおそらく多数をたのみにして来たものだろう。