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おかよ

おかよ

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1942(昭和17)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,116 字 · 19 页

青空文庫

弥次郎はひどく狼狽したように、手を振りながら口ごもった。それはちょうど子供が怖いものから逃げようとする身振りに似ていた、おかよにはそういう男の気持がよくわかった。

男は戦場へゆくのを恐れている。男は足軽だった、父の代から細川家の足軽で、十四の年に母を、その翌年に父を喪った、もともと気の弱い、ひっこみ思案の性質だったのが、孤児になってから一層ひどくなり、仲間もなく、いつも独りで蔭のほうに縮まっていた。おかよもやっぱり孤児だった。それではやくから伯母のやっている茶店で働いていた、茶店は木挽町の采女の馬場の傍にあり、すぐ前が細川越中守の中屋敷になっていた。……細川家の重臣たちはよく馬場へ馬をせめに来る、その供をしてくる足軽たちのなかに弥次郎もいた。

彼はいつも仲間から離れたところで、ひっそり腕組みをしては馬場を眺めていた。そのようすがあまり淋しそうなので、ある日おかよが茶を持っていってすすめた。彼は赤くなって断りを云った。それはまるで継子が思いもかけず菓子でも貰うときのような感じだった。それがきっかけで二人は少しずつ知り合うようになった。馬場のほうへおかよが茶を持ってゆくこともあり、弥次郎もときたま茶店へたち寄った。