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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

竹中はその一つ一つを取って、炉の火に向けて長方形の各角度を、ためつすがめつ眺めていた。

「なにか特別な炭を焼いている、というのはその炭ですか」

「そうです、特別というほど大げさな物でもないが」と竹中は持っている炭を裏返しながら云った、「――東京や京都の大学で、化学や医学の実験に使うんだそうです、なにかの濾過や炭素の分解などに使うらしい、よくはわからないが、それで焼きかげんにちょっとくふうがあるんだな、朴の木がいちばんいいらしい、ぼくは朴の木だけを使ってるんですがね」

「ぼくにはなんにもわかりませんが、そういう意義のある仕事があるのに、どうしてブラジルへなんかいらっしゃるんですか」

竹中啓吉は炭を渋紙に包みながら、きみはキリスト教の終末観ということを知っているかね、と反問した。

「ええ」と隆二は頷いた、「ただ素読みをしただけですが」

「広島と長崎に原爆が投じられた」と竹中は低い声で云った、「七年まえには、エニウェトックで水素爆弾の実験が成功した、続いてソビエット・ユニオンでも水爆を完成した、きみも知っているだろうが、水爆を二十個も投下すれば、この地球は太陽になって全生物はほろびてしまう、――キリスト教に予告されている終末観、この世界のほろびてしまう時期が刻々と、眼の前に迫っているんだ、きみはそうは思いませんか」