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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

「あたしおなかがすいちゃったわ」

「ぼくもさ、水のあるところを捜していたんだ」と云って彼は肩のリュックサックを揺りあげながら、左のほうを指さして、あそこがよさそうじゃないかと云った。若い杉林に囲まれた陽だまりの窪地で、枯草がいかにもあたたかそうであり、すぐ脇に細い流れがきらきらと光っているのが見えた。二人はそこで背負って来た物をおろし、りつ子は頭の風呂敷をとりのけながら、どしんと枯草の上へ腰をおろし、両足をなげだした。――思ったとおりそこはあたたかで、陽に蒸された枯草の匂いが、空気の中にあまく匂っていた。

松山隆二はリュックサックから錫のカップを外し、細い流れまでいって、清らかに澄みとおった冷たい水を満たし、こぼさないように用心しながら戻った。そして竹中啓吉に焼いて貰った、もろこし餅の包みをひらき、りつ子と二人のあいだに置いた。

「あら、あたしそれいらないわ」りつ子は背負って来た包みをほどき、中から竹の皮に包んだ物を出して見せた、「これなんだと思って、お兄さん」

「断わっておくけれど、そのお兄さんはやめてくれないか、としからいったっておじさんのほうがいいんだから」