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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

七

てみまして、それが思いあがりであったこと、まちがった考えだったということに、気がついたのです」

加平は盃を措いた。

そして又五郎の言葉をいろいろかみわけるように、膝の上へ手を揃えてじっと聞きいった。

「百姓も猟師も、八百屋も酒屋も、どんな職業も、絵を描くことより下でもなく、上でもない、人間が働いて生きてゆくことは、職業のいかんを問わず、そのままで尊い、――絵を描くということが、特別に意義をもつものではない、……私はこう思い当ったのです、わかりきったことのようですが、私は自分の躯で当ってみて、石を担ぎ、土運びをしてみてわかったのです、そうして、初めて本当に絵が描きたくなって帰ってきたのです」

加平は頷いた。

そして聞いた言葉にはなにも触れず、彼の盃に酌をして、微笑むような眼をあげながら云った。

「六曲一双早く拝見したいものです」

七

又五郎は小梅の寮へはいった。

仕上るまでは誰にも知らさないように、こう云われたのであるが、加平はそうもできず、久堅町と島田ほか二人に彼の帰ったことを知らせ、但し絵のあがるまでは小梅へはゆかないようにと念を押した。

小梅の寮には宇吉とおげんという老夫婦がいるだけで、これが又五郎の世話をして呉れた。