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かやのおいたち

かやの生立

岡本 かの子

「解放」1919(大正8)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,632 字 · 25 页

青空文庫

その無理にゆがめた唇のほとりから逃げた筋肉が、突拍子もなく頬骨の上部まで丸く高まって、てらてらした湯上りの顔中の皮膚の艶を一所に集めてしまった様に、茶の間のランプの光を受けた。

「どれどれ、見せな、かや」

と、お媼さんは、婆やの後ろにかくれて居るかやの顔をのぞき込んで、

「なるほどな、真白なお多福さんが出来上ったな、あはははははは、だがな、女の子だもの、お白粉ぐれいはな、いいやなあ あはははは」

お媼さんは、男の様な大容な声を出して笑ったあとで、歯の抜け落ちた唇の窪みを、もごりもごり、と動かし乍ら、取り做し顔に、お爺さんと婆やの顔を見くらべた。それでもなおお爺さんが、苦り切って居るので、

「まあ、御めん遊せや」

と婆やは頭を一つぺったり下げて、逃げる様にかやの手を引いて、かやと二人の寝所に宛ててある離れ座敷の六畳に続く廊下の方へ出て仕舞った。かやもほっと安心すると、急に湯上りの温った足の裏に、木肌が冷たく沁み渡って、せいせいした気持になった。奥の間、次の間、仏壇の間、という順に、内庭の木立の繁み近くに迄建て連ねられた幾つかの座敷に沿うた縁廊下は、遥々と見渡すほどに長く延びて居た。