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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

彼処にはお鉢に赤飯を入れて沈めるお祭典があったね?」

と村田さんが水を向けても、お上さんは、

「あのお池の底が信州の諏訪湖へ通じていると言わせて又私を笑うお積りなのでしょう。最早御免でございますよ」

「もう一つ京丸の牡丹だ」

「あれも何うだか分りませんわ。平家の残党の匿れていたところだと申しますが、矢張り証拠がございませんもの」

といった具合で至って手短に片付けてしまった。

お昼近くになっても雨は止まなかった。今日の予定は弁天島も岡崎も悉皆流れてしまいそうだ。お上さんの勧誘によると弁天島は静岡名古屋間唯一の遊覧地だから、もう一日逗留しても見て行く価値があるそうだ。それよりも尚お僕の興味を惹くのは藤吉郎の昔を偲ぶ岡崎の矢矧橋だ。がこの天気では何も彼も諦めなければならない。

「三河の土を少しも踏まないでしまうのは残念だね」

とお父さんは甚だ不本意らしかった。

「三河には別に見るものはありませんよ。豊川稲荷という迷信の本場と岡崎の八丁味噌が多少知れているぐらいのもんです」

と村田さんは畳の上で浜松の案内を終って最早三州へ入っていた。そうして、

「名古屋の勢力範囲ですから三河の人は皆我利々々亡者です」