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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

「目ぼしい科は皆書いて置くんだよ。何か引っかゝるからね」

僕達は早速玄関へ上り込んだ。患者は一人も来ていなかった。

「御診察を願いたいので」

と三輪さんは出て来た書生に申入れた。

「少時お待ちを」

といって青年が引っ込んだ後、

「先生余り流行らないようだね」

とお父さんが小さい声でいった。

「しかし履物が大分あるから診察中なんだろう」

と三輪さんは伸び上って土間を見渡した。

「履物って、下駄は今の書生っぽうので、あの靴は皆僕達のだぜ」

とお父さんも土間を覗くようにして相手の誤謬を指摘した。

「成程、然うだね。或は未だ時刻が早過ぎるからかも知れない」

と三輪さんは時計を出して見た。捲き忘れたから例によって止まっている。「一週間捲きのを細君に買って貰い給え」とは先日団さんから受けた説諭だった。兎に角今脱いだ自分の靴をもう他のものと思っている放心者が、深く敵地に入って御大将を担ごうというのだから少し押しが太い。

お父さんと三輪さんは硝子障子の隙間から診察室を覗き始めた。

「いないね」

「まだ寝ているのか知ら?」

「門前雀羅さ」

「爆弾を置いても危険はない」

患者がいないにしては馬鹿に待たせる。