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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

と田鶴子さんが内証で僕に言った。これだから躾けは大切だ。子供は何でも親の真似をする。

「京都は鱧が名物と見えるね? 鱧ばかり食わせる」

と団さんはそんな事情には頓着なく大胡坐をかいたまゝ箸を執った。尤もきちんと坐っているものは一人もいない。星野さんまで立膝をして爪先に貧乏揺りという奴を演じさせている。礼儀作法は不公平なものだ。女と子供丈けに正座を要求する。

「魚の不便なところだから不漁の時の用心に鱧を囲って置くのさ。此奴はこんなに骨っぽい丈けに寿命が強いそうだからね」

と星野さんが答えた。

「叡山に鱧を献ずというから京都人は昔から鱧を利用したもんだね」

とお父さんが言うと、団さんは、

「坊主が鱧を食うのかい?」

「否、漢字の覚え悪いという例に持ち出す文句さ。『叡山に鱧を献ず』と即座に書ける人は滅多にない」

「成程ね、僕にしても確信のあるのは山という字ぐらいなものだ。閑人丈けに君は妙なことを知っているね」

「鱧はこれでナカ/\うまいよ。しかし京都の名物は一体何だい?」

と三輪さんが訊いた。

「さあ、余り名物もないね。『京の着倒れ大阪の食い倒れ』というほどだから、此処へ来たら食う方は諦めるんだね。