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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

入学式

危ぶむことは一つもない。それだのに、こんなにいろいろ取り越し苦労をしている。信仰が固くないからなのだ、神がきっと二人の子を守っていなさる。それだのに汽車は脱線しはせぬか? と思う。こんな思いを抱いた瞬間、今、ほんとうに脱線するかもしれない。いけない、いけない、疑ってはいけない。大丈夫だ。おまかせしておけば大丈夫だ。私はロザリオを繰って祈りつづけた。

……

あくる日の夕方。

「ただいまっ」と大きい声。

「ただいまっ」と小さな声。

庭を駆けて来るはずんだ足音を聞くと、私を圧し包んでいた重いものが、ぱあっと逃げていった。私はぐんにゃりと膝をたおした。

目の前に来て座った二人の子が、まるで世界一周をして来たかのように見えた。二人とも童貞さま心尽くしの仕立ておろしの服を着てにこにことしている。

「立ってごらん。両手を横に広げてごらん」と私が言うと、二人は顔見合わせて笑いながら、並んで立った。そでが長くて、手の甲がかくれている。

入学式

四月一日。カヤノは三時に目をさまし、窓の外が暗いのにがっかりし、また床に入った。私も眠れないでいた。それでも、うとうとしたのか四時を知らず、五時の工場の汽笛に目ざめた。