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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
手ばなしで、天真らんまんに大きな口をあけて、声を限りに、地だんだ踏んで泣いたものだ。時々声をおさめ、だれか止めに来てくれはすまいか、慰めてくれないだろうか、お母さんならいちばんよいが、などと考えて耳をすまし、だれも出て来そうな気配がないと、さらに一層効果があるように奮発して、声がかれるまで泣きわめいたものである。
子供が泣くのは、恐ろしいから、痛いから、悲しいから、怒ったから、というような理由のためではない。泣き出す動機はそんなものであっても、いざ泣き出してしまえばもうそんなことは意識になく、ただ泣くために泣く。泣くという動作そのものによって一種の満足を感ずるのであろう。あの年ごろでは肉体的にも精神的にも成長がいちじるしく、新陳代謝が盛んであるから、肉体的にも精神的にも何かもやもやしたものがかたまってくる。そいつが思いきり泣くことによって、ぱあっと発散してしまうのだ。うっとうしい蒸し暑さが夕立の大騒ぎで、きれいさっぱり吹き飛んでしまうようなものだ。子供の泣くのは弱虫だからではなく、健康な生理的な一つの要求なのである。しかも、泣けばあとでお母さんから優しく慰めていただける期待がある。