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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
六助はふてたように云った、「おら、なんにも云わねえ、もう口はきかねえから、しょびくなりなんなり好きなようにしてくれ」
「この野郎」と番太の一人が云った、「てめえ旦那に助けて頂いたのに、なんて口をききゃあがるんだ」
「のぼせてるんだ」律之助は濡れた両刀を持って、上り框のほうへ来た、「うっちゃっとけばおちつくだろう、済まないが懐紙と手拭を三本ばかり買って来てくれ」
彼はそくばくの銭を番太の一人に渡した。その番太はすぐに出ていった。彼は上り框に腰をかけ、土間の炉の火へ両手をかざした。
この自身番は三カ町組合なので、町役二人に番太が三人であるが、町役はどこかにもめ事があるとかで、二人とも留守だった。「呼んで来ましょう」というのを、律之助はそれには及ばないと断わり、やがて買って来た懐紙と手拭で、刀の手入れをしながら、三人の番太と暫く話した。
――おれの勘は当ったぞ。
彼は心の中でそう繰り返した。
――この男は誰かに頼まれた、誰かに頼まれておれを殺すか、少なくとも再吟味を妨害しようとしたんだ。
なにも饒舌らない、というのがその証拠であろう。彼は初め考え違いをした。